【忘れられない出会い】鑑定士として心に残るお客様との出来事
東京銀座で10年、美術品鑑定士として従事し、現在は福岡県内で美術商を営んでおります。
丸奈アートの奈良岡です。
美術品の仕事に関わって、早くも11年目になりました。
この間、本当にさまざまな出来事があり、数えきれないほどのお客様との出会いがありました。
実際に買取をさせていただいたお客様はどの方も印象深いのですが、銀座の画商時代に出会った、今でも忘れられないお客様がいらっしゃいます。
今回は、その方との出会いについてお話ししたいと思います。
そのお客様はそれまで営まれていたお店をたたみ、ご隠居されるとのことで山梨へお引っ越しされる予定でした。
東京の中心街で長く接客業をなさり、その中で少しずつ美術品を集めてこられたのですが、お引っ越しにあたり本当に大切なお品物を2〜3点だけ残し、あとは整理したいというご相談でした。
当時の私は、まだ新人に毛が生えた程度の鑑定士でした。
主な仕事は事務や、先輩鑑定士のサポートです。
今回の案件も、手が回らない先輩鑑定士とリモートで連携しながら、1点ずつ状態を確認し、査定を進めていきました。
実はその頃の私は、会社を辞めようかと本気で悩んでいました。
仕事がとても辛かったのです。
何をやってもうまくいかず、空回りばかりでした。
知識も経験も思うようにつかず、自分の無力さばかりを感じていました。
毎日、下を向いて歩いていたように思います。
会社へ出勤することさえ苦しく感じる時期でした。
そんな私を見て、お客様は何か感じてくださったのかもしれません。
私は仕事がうまくできない分、せめて品物だけは丁寧に扱おうと心がけていました。
するとお客様は、
「あなた、品物の扱いがとても丁寧で綺麗ね」
と声をかけてくださり、お茶やお菓子まで勧めてくださいました。
先輩鑑定士と連携し、最終的な買取評価額をご提示したところ、お客様はすぐにご了承くださり、こうおっしゃいました。
「最後にあなたみたいな鑑定士と出会えてよかったです。あなたに売ります」
この言葉は、今でもはっきり覚えています。
私はただ、自分にできることを精一杯やっただけでした。
それでも、お客様は私の仕事を見てくださっていた。
認めてくださった。
そのことが本当にありがたく、心に深く残りました。
その時、私は思ったのです。
今の自分にはまだ誇れるものはない。
でも、もう少しこの仕事を続けてみよう。
そう思わせてくれたのが、このお客様との出会いでした。
もしあの時、このお客様と出会っていなければ、今の私は鑑定士の仕事を続けていなかったかもしれません。
それほどまでに、私の人生を変えてくださった方でした。
人と人との出会いは、ある意味で奇跡のようなものだと思います。
たったひとつの出会いが、その後の人生を大きく変えてしまうことがあります。
美術品との出会いと別れも、きっと同じなのだと思います。
だからこそ私は、美術品鑑定士として、
「お客様と美術品との最高の出会いと別れ」
をサポートしたいと考えています。
このお客様との出会いこそが、丸奈アートの原点なのかもしれません。
後日談ですが、そのお客様は買取から数か月後、山梨から銀座へご用事でいらした際に、わざわざ画廊まで会いに来てくださいました。
とてもお元気なご様子で、山梨での新しい生活を楽しまれているようでした。
それ以来、お客様とはお会いしておりませんが、今もお元気でいらっしゃるでしょうか。
いつかまたお会いして、あの時のお礼をお伝えしたいと思っています。
そして今も、曲がりなりにも鑑定士を続けていることをご報告できたら嬉しいです。
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