【評価額1,000円】忘れられない一枚の絵|なぜ私はこの仕事を続けているのか【第三話】
東京・銀座で10年間、美術品鑑定士として従事し、現在は福岡県久留米市を拠点に美術品・骨董品の査定買取を行っております、丸奈アートの奈良岡です。
今回は少し趣向を変えて、私がこの仕事を続けている理由のひとつでもある、忘れられない一枚の絵のお話をさせていただきます。
美術の仕事に関わって11年目になります。
これまで画像査定も含めれば、数十万点の美術品に目を通してきたと思いますが、正確な数は覚えていません。
ただ一つ言えるのは、本当に多くの作品を見てきたということです。
銀座の画商に入社して間もない頃、社長に同行して出張査定へ行く機会がありました。
法人様の所有する絵画の査定で、会議室の壁一面に作品が並べられていました。
その中の一枚に、私は目を奪われました。
黒を基調とした、森の中に佇む朽ちた家の絵。
静かで、どこか寂しげでありながら、構図の美しさと描写の巧みさが印象的で、
「なんて良い絵なんだろう」
と強く感じたのを覚えています。
当時の私は、まだ作品の価値などほとんど分かっていませんでした。
ただ純粋に、
「この絵はいくらの価値がつくのだろう」
と思い、査定メモを覗きました。
そこに書かれていたのは、
作家性なし 1,000円
という評価でした。
正直、驚きました。
こんなに良いと感じた絵なのに、評価はこの程度なのかと。
今であれば、この評価は理解できます。
美術品の価格は、
・作家の知名度
・市場での流通実績
・コレクター需要
・来歴や付属品
などによって決まります。
どれだけ絵が上手くても、どれだけ魅力的でも、
市場で評価されなければ価格はつかない
という現実があります。
おそらくその作品の作者も、名前を残せなかった画家の一人だったのでしょう。
その絵の作者の名前を、私は知りません。
知る方法もありません。
それでも、あの朽ちた家の絵は、今でもはっきりと思い出せます。
私は美術品で商売をしている人間ですが、同時に美術を愛する一人の人間でもあります。
高額な作品が必ずしも心に響くわけではありません。
安価な作品でも、忘れられないほど印象に残ることもあります。
その感覚こそが、美術の面白さなのだと思います。
もしかすると私はあの絵にもう一度出会いたいという気持ちがどこかにあって、この仕事を続けているのかもしれません。
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・【なぜ私は続けているのか】美術品鑑定士という仕事|銀座から福岡へ【第一話】
・【忘れられない出会い】鑑定士として心に残るお客様との出来事【第二話】
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