藤田嗣治という「怪物」|美術品鑑定士が世界のフジタに惹かれる理由

初めて作品を見た時、「この人は何者なんだ」と思った
美術商として仕事をするようになってから、藤田嗣治の作品を取り扱う機会は何度もありました。
肉筆画はもちろん、版画作品も数多く査定してきました。
しかし実は、画商へ入社したばかりの頃の私は、藤田嗣治という画家をほとんど知りませんでした。
作品はどこかで見たことがあっても、それが「藤田嗣治」という一人の画家の作品だとは結び付いていなかったのです。
改めて作品と向き合った時、まず驚いたのは圧倒的なデッサン力でした。
人物も猫も、まるで骨格から組み立てられているかのような正確さがあります。
線に迷いがなく、形に破綻もありません。
作品を見れば見るほど、「この人は何者なんだ」と思わされます。
私は今でも、画家として最高峰の技術を持つ一人だと感じています。
「世界のフジタ」と呼ばれる理由
藤田嗣治は、日本人画家として世界的な成功を収めた数少ない存在です。
乳白色と呼ばれる独特の裸婦表現はもちろん、猫や子どもを描いた作品も高く評価され、現在でも国内外で高い人気があります。
肉筆画は非常に高額で取引されることが多く、作品によっては現在でも数千万円規模の評価となることがあります。
まさに、「世界のフジタ」と呼ばれるにふさわしい画家です。
展覧会で感じた、絵の洪水
2018年、東京都美術館で開催された「没後50年 藤田嗣治展」を訪れました。
100点を超える作品が展示されていた大規模な回顧展です。
私はその時、不思議な感覚になりました。
まるで絵の洪水の中へ飛び込んでいるようだったのです。
鑑定士として、これほど多くの真作を一度に見られる機会は滅多にありません。
だから私は、作品を一枚でも多く目に焼き付けようと、説明文よりも絵そのものを見続けていました。
線の引き方。
色の重ね方。
肌の質感。
猫の表情。
一枚一枚を観察することだけに夢中になっていました。
その時はまだ、藤田嗣治が戦後、日本を離れることになった経緯についても、「そんな出来事があったのか」くらいの理解しかありませんでした。
しかし後になって伝記や資料を読み進めるうちに、その人生は私が思っていた以上に複雑だったことを知ります。
藤田嗣治は多分、「怪物」だった
これは史実ではありません。
あくまで、作品や人生に触れてきた私自身の率直な印象です。
私は藤田嗣治という画家は、ある意味で「怪物」だったのではないかと思っています。
東京美術学校では黒田清輝の指導を受けながら、その作品は高く評価されませんでした。
日本画を学んでも、「洋画のような日本画」と評されます。
しかし後に、その藤田嗣治は世界を代表する画家になります。
もちろん、美術に絶対的な正解はありません。
時代によって評価も変わります。
それでも私は、「これほどの才能を、本当に誰も理解できなかったのだろうか」と考えてしまうのです。
パリへ渡った藤田は、西洋画を真似するのではなく、日本人としての感性や浮世絵の要素を取り込みながら、誰にも真似のできない「フジタ」という表現を生み出しました。
その独創性こそが、世界中で評価された理由だったのでしょう。
戦争画と、日本との決別
藤田嗣治の人生を語る上で避けて通れないのが、戦争画の問題です。
彼は戦時中、国の要請を受けて戦争画を描き続けました。
しかし終戦後、その責任を問われ日本美術界との間には深い溝が生まれます。
私は当時を生きていたわけではありません。
だから、その時代を簡単に評価することはできません。
ただ、伝記を読み作品を見続ける中で、どこかやり切れない思いが残るのも事実です。
もし藤田が日本ではなく、最初から海外だけで活動していたなら。
もし戦争という時代がなかったなら。
そんな「もし」を考えてしまう画家でもあります。
だからこそ、何度でも作品に出会いたい
藤田嗣治の作品には、人を惹きつける力があります。
それは知名度だけではありません。
作品の前に立つと、「この画家にしか描けない世界」が確かに存在していることを感じます。
私が「怪物」と表現したのは、人間離れした画力だけではなく、自分だけの表現を世界で確立してしまった、その芸術家としての存在そのものです。
だから私は、美術商としてこれからも何度でも藤田嗣治の作品に出会いたいと思っています。
査定のたびに、新しい発見があります。
それほどまでに奥深く、魅力の尽きない画家なのです。
藤田嗣治の作品をお持ちではありませんか?
藤田嗣治の作品には、油彩画だけでなく、版画やデッサン、挿絵、掛軸などさまざまな種類があります。
作品によって評価は大きく異なり、保存状態や制作年代、付属品の有無なども査定額に影響します。
丸奈アートでは、一点一点の作品と丁寧に向き合いながら査定を行っております。
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